USヒップホップ界隈から探る古代エジプトの謎【1】

USヒップホップ界隈から探る古代エジプトの謎【1】

2018年から2019年にかけて、USヒップホップ/R&B界隈のアフリカ系アメリカ人アーティストの作品を中心に頻繁に目にしたのが古代エジプト文明のモチーフである。アルバムのカバーアート、ミュージックビデオといったヴィジュアル・コンセプト、ファッション等で古代エジプト文明を象徴するピラミッド、ファラオや王妃といった実在した人物、象形文字のシンボルなどが起用されている。このようなヴィジュアル表現や楽曲のリリックで古代エジプト文明を言及する例はブラック・ミュージックにおいて今までにも数多くあるが、昨年から改めて目立った動きを見せている。何故このタイミングで古代エジプト文明なのか?そして、アフリカ系アメリカ人アーティストが古代エジプト文明のモチーフを持ち出して伝えたいメッセージとは何なのか探ってみた。まずは、ここ数年間で目にした古代エジプトのモチーフで、どんなものがあったのか振り返ってみよう。

BEYONCE

ここ最近で一番と言っていいほど古代エジプトのモチーフを起用したのはビヨンセである。特に絶世の美女と噂された古代エジプトの王妃、ネフェルティティ(アメンホテプ4世の妻/ツタンカーメンの義母)とは関係が深い。2018年4月に開催された コーチェラ・フェスティバルでのビーチェラ(Beychella)では、レバノンのデザイナー、ニコラス・ジェブラン(Nicolas Jebran)によるネフェルティティにインスパイアされた衣装を着用した。最新アルバム『Homecoming』のカバーアートをはじめ、Jay-Zとのジョイントツアー”OTRII”のグッズ、「Sorry」のミュージックビデオやマタニティ・フォトまでネフェルティティにインスパイアされている。2018年12月に南アフリカのヨハネスブルグで開催されたグローバル・シティズン・フェスティバルでは、フランスのラグジュアリー・ファッション・ブランド、バルマン(Balmain)デザインによるエジプトの象形文字が散りばめられている衣装を着用した。

ビヨンセの歴史を振り返るとチャンスがあれば古代エジプトというほどで、2016年のBET Awardsにて、ケンドリック・ラマーと「Freedom」を披露した時は、古代エジプト神話の女神、マート(Ma’at)を連想させるデザインの衣装を着用した。

2006年公開の映画『ドリームガールズ 』では「クレオパトラ」を映画化するというシーンでビヨンセ演じるディーナ・ジョーンズがクレオパトラに配役されている。そして、2002年公開の映画『オースティン・パワーズ』では、ブラック・エクスプロイテーション映画で活躍した女優たち、フォクシー・ブラウン(パム・グリア)とクレオパトラ・ジョーンズ(タマラ・ドブソン)を掛け合わせたフォクシー・クレオパトラを演じた。

OFFSET

ミーゴスのオフセットが2019年2月にリリースしたソロ・デビューアルバム『Father of 4』のカバーアートは、カーディ・Bとの愛娘、カルチャー(Kulture)を含むオフセットの子供達との家族写真である。そこに、古代エジプトをモチーフにした背景がフォトショップで加工されている。

NICKI MINAJ

ニッキー・ミナージュが2018年の8月にリリースしたアルバム『Queen』のカバーアートは、古代エジプトのクイーン、クレオパトラにインスパイアされている。

TYGA

2019年1月に公開されたタイガのミュージックビデオ「Floss In The Bank」では、タイガが大勢のギャルとエジプトのピラミッドに向かい、顔認証でピラミッドの中に入り、そこでパーティをするという非常にユニークなストーリーである。

THE BLACK EYED PEAS

2018年12月に公開されたブラック・アイド・ピーズのミュージックビデオ 「BACK 2 HIPHOP」では、ピラミッドが大々的に登場すると共に、ナズが1999年に発表した『I Am…』アルバムカバーのファラオ化したナズで登場している。

RIHANNA

タトゥー好きで知られているリアーナの左の脇の下にはネフェルティティ、胸の下には古代エジプト時代から多くの人々に崇められてきた女神イシスのタトゥーが入っている。そして、2018年の11月にはファッション雑誌「Vogue」のアラビア版で、ネフェルティティにインスパイアされたヴィジュアルで表紙を飾っている。

SWIZZ BEATZ & ALICIA KEYS

Alicia Keys on Instagram

スウィズ・ビーツとアリシア・キーズ夫妻は、2人の息子たちの名前がジェネシス・アリ・ディーン(Genesis Ali Dean)、エジプト・ダオウド・ディーン(Egypt Daoud Dean)とエジプトにちなんだ名前である。そして、2018年8月にはエジプトへ家族旅行に行き、現地で象形文字を学び、ナイル川をクルーズした。旅行を楽しみながらも「この偉大さは私たちのDNAの中にある!」とコメントしている。

米テレビ番組「トゥディ」が公開したネフェルティティの胸像

2018年の2月にはアメリカでこんなことが起こった。米テレビ局NBCの番組「トゥディ」が米トラベル・チャンネル「Expedition Unknown」、考古学の学位をもつ冒険家のジョシュ・ゲイツとのコラボレーションで、1989年に見つかったネフェルティティの頭蓋骨を元に、3Dスキャナーで復顔した「ネフェルティティの胸像」を公開した。

歴史的にネフェルティティは肌が濃い色で描かれているが、今回完全再現されたネフェルティティは、明るい色の肌で描かれ、ピンク色の唇など現代の白人女性の身体的特徴で表現されていた。さらに、番組側が意図したかは不明だが、アメリカではブラック・ヒストリー・マンスとなっている2月に放映され、ソーシャルメディアではアフリカ系アメリカ人コミュニティから反発の声が上がった。ネフェルティティはアフリカ系女性であり、この白人化されたネフェルティティはフェイクだという主張である。このニュースの2ヶ月後に開催されたビーチェラでのビヨンセのパフォーマンスは「ネフェルティティは私のようなアフリカ系です!」というクイーンからのメッセージとも受け取ることができるだろう。

今までに発掘されたネフェルティティの遺物、ネフェルティティの親族といわれている人物の遺物を見てみると、アフリカ系アメリカ人コミュニティからの反発も理解できる。アメンホテプ3世の正妃で、ネフェルティティの義理の母にあたるティイ王妃、ネフェルティティの夫であるアメンホテプ4世の遺物は、どうみてもアフリカ系の身体的特徴を捉えている。

ということで、今回は近年のアフリカ系アメリカ人のミュージシャンたちが古代エジプトのモチーフを用いている例を紹介したが、この傾向は最近始まったものではなく、ヒップホップ界隈だけでなくアフリカ系アメリカ人アーティストの間では、かなり昔から慣例化している。<続>

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