チーフ・キーフから観るシカゴ・サウスサイドの実態!

チーフ・キーフから観るシカゴ・サウスサイドの実態!

2012年は「バインバイン」でお馴染みのシカゴの現在17歳のラッパー、チーフ・キーフがメジャー契約など飛躍!?の年となりました。同時に、チーフ・キーフやリル・ダークらを口撃していたシカゴのラッパー、リル・ジョジョがリル・リースを嘲っている映像を公開後に亡くなっている事件、銃声の音を表している「バインバイン」(バンバン/Bang Bang)など、ネガティブな面も目立っていました。その「バインバイン」を象徴するかのようにシカゴのフッドでは毎日のように銃弾が飛び交い、アメリカ国内、特にシカゴでは「青少年による暴力」が大問題となっているようです。シカゴだけでなく、フッドと呼ばれる地域の現状はどこも同じような感じだと思いますが、チーフ・キーフが居るシカゴのフッドはどうなってるのか!?「バインバインの現実」を探ってみました。

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シカゴといえば、カニエ・ウェスト、コモン、ルペ・フィアスコ、トゥイスタ、ライムフェスト、キング・ルイ、L.E.P.ボーガス・ボーイズといったアーティストが挙げられますが、チーフ・キーフはサウスサイドという特に治安が悪いエリアの出身で、他にもコモン、ノーI.D.、デッド・プレズのM1、L.E.P.ボーガス・ボーイズやミシェル・オバマ大統領夫人などが同郷です。サウスサイドは昔から治安が悪いことで知られており、この治安の悪さは近年始まったことではなく、常に危ないエリアとして認識されているようです。

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※[左地図]黄色い部分がイリノイ州、シカゴのサウスサイドと呼ばれるエリアです。
※[右地図]2005年の犯罪マップ。赤やオレンジの部分が犯罪率が高いエリアです。

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こちらは、シカゴのギャング・マップです。青の部分が60年代から存在するシカゴでも大きいギャングの1つ、ブラック・ディサイプルズの縄張りで、サウスサイドほぼ縄張っています。チーフ・キーフのリリックや作品などで「#3hunna」という単語を知っている方も多いかと思いますが、「3hunna=3hundred=300」ということで、チーフ・キーフは300組の組合!?グループで構成されるブラック・ディサイプルズを示唆し、レぺゼンしているようです。また、Ⅲ(3)という数字もブラック・ディサイプルズのシンボルとなっているようです。

ちなみに、チーフ・キーフ本人にツイッターで「3hunna」の意味を尋ねたことがあるのですが、奇跡的に返ってきた回答は「Meaning How Real We Keep It」でした。

ケンドリック・ラマーのお父さんもコンプトンに移住前のシカゴで、このギャングに属していたように、シカゴの若者で従兄や親戚祖父母たちがギャングである事は特に珍しい事ではありません。60年代から活動しているギャングの歴史を見ていくと、地域貢献などポジティブな活動をしていた時期もあり、現在の青少年によるギャング・バイオレンスの増加は、現役の規律の無い若者達によるものだという年配のギャングOGたちの意見もあるようです。また、L.E.P.ボーガス・ボーイズは、ギャングについて「昔は地域を守っていた存在だけど、ドラッグとお金が絡みだしてから、ギャングは強欲で自分勝手な集団になった」とも語っています。

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※2011年度の年齢別殺人被害者統計

コチラの殺人被害者数統計の年代別表を見ると、2011年の時点で17歳から25歳までの若者の殺人被害者が一番多い事が分ります。シカゴの新聞「シカゴ・トリビューン」で記事を調べてみても、現在も毎日サウスサイドのエリアなど、どこかしらで発砲事件が頻繁に起こっており、人が怪我したり亡くなっています。今年9月に亡くなったリル・ジョジョも16歳でした。ちなみに、1991年には、計928人がマーダーで亡くなるというのも凄い数です。


※2012年7月25日MTV「RapFix」でオンエアされたルペ・フィアスコのインタビュー映像

そんなこんなで、ギャング文化や疫病のような暴力に溢れているサウスサイドの状況を地図や数字でご紹介してきましたが、今年の夏に収録されたルペ・フィアスコのインタビュー映像も必見です。ルペが2006年にMTVでルペのフッドを訪れた際の映像を振り返っているのですが、ルペが感極まって泣き崩れています。「映像に映っていた彼の仲間の中には死んでるヤツ、刑務所に入っているヤツがいる。フッドから抜け出そうと、みな必死に頑張っているんだよ。同じ建物はまだそこにあるけど、フッドの状況は6年前と何も変わっていない。このフッドから抜け出せない子供達もいる。絶望を感じるよ。最悪だし、今ここに居ない人たちの事を語るのは凄く辛い」と殺人都市シカゴを語っていました。特に、フッドからラッパーとして成功し、環境が良い方向に変化したルペにとって、何も変わっていない自分のフッドを見た時の辛さ、悲しみがヒシヒシと伝わってきます。

現在、スティーブ・ジェームス監督による『The Interrupters』(阻止する人々!?)という、皆さん必見のドキュメンタリー映画がアメリカで公開されています。サウスサイドの地域コミュニティを暴力から阻止し、人々の命を救う目的で実験的な活動をしているCeaseFireという団体を追った作品で、この予告編映像だけでも、統計の数字ではわからないサウスサイドの実際の様子がわかります。サウスサイドの人々が怒りに溢れていたり、悲しみに暮れていたり、正当な理由も無く人々が亡くなっているのを観て胸が痛くなります。ちなみに、スティーブ・ジェームス監督は、1994年に『Hoop Dreams』という作品も発表しています。NBA選手になって貧困から逃れるという夢を追いかけるシカゴの貧困地区に住む2人の黒人青年を追ったドキュメンタリー作品で、こちらも必見です。

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このCeaseFireという団体で活動している人々のほとんどが元ギャングのメンバーです。父親が有名なギャングのリーダーであったアミーナ、ドラッグ業と殺人未遂で12年の刑期を終えたコービー、自らギャングのリーダーで殺人の罪で14年の刑期を終えたエディなど、ギャング文化で育ち、過去に実際にギャング行為を働いていた3名が、暴力を阻止する人「インタラプターズ」として活動しています。ギャングとの話し方や対応の仕方を知らない外部の人間がギャングと接すると「ストリートの掟」を簡単に破ってしまいトラブルになってしまう事もあるため、「ストリートの掟」やギャングへの対応、自分の身の交わし方を充分に熟知している元ギャングの人々にしかできない活動だなと思います。

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※怒り心頭のフレイモと、「あちゃー」といった表情のコービーです。

コービーがサポートしていた、予告編にも出てくる赤いキャップを被った32歳で子持ちのフレイモという男性がとても印象的でした。フレイモはコービーが刑務所で服役している最中に出会った男性で、警察が家に押し掛けてきて兄弟と母親を逮捕したと連絡していました。コービーがフレイモの家に着くと、酒のボトルを片手に怒り心頭のフレイモさん。「俺をどうサポートしてくれんだよ?はぁ!」とマジでおっかない態度で挑んでくるフレイモに、少しビビりながら対応するコービー。とりあえず落ち着いて話をしようと食事に誘ったコービーですが、近所に止まっている車を見て「警察か!?」と、ササッと機敏に隠れたり、外出するにも「ピストルもってくっから!」、車に乗ってもウィードを吸おうとしたり、ひっちゃかめっちゃかなフッドの姿勢を崩さないフレイモさんでした。このようなやり取りを見ると、フッドの人への接し方を一歩でも間違えると自分の身が危険にさらされ、下手に接する事はできないという事が凄く良く分かります。これ以上関わっては危険だという引き際を分かって行動することも必要なんですね。そんなフレイモですが、コービーのサポートのおかげで、以前とは違った生活をしています。大袈裟かもしれませんが、フレイモの命を救ったと思います。

サウスサイドで行われる葬儀のほとんどが若者だそうで、上の映像はアミーナが亡くなった黒人少年のお葬式で、他の若者達に語りかけている様子です。

こちらは、子供向けのアート・プログラムで活動しているエディの様子です。小学生ぐらいの女の子が「この前、家の近くで喧嘩が始まって、誰かが銃を撃って…」と泣き出してしまう子や、恐ろしい体験をしたのに、ずっと誰にも話せなかった子、兄が自分の腕の中で亡くなった女の子などがいました。日常的に恐怖にさらされている子供達のメンタル・ケアの重要性が伺えます。

ということで、「バインバインの現実」を軽く探ってみましたが、いかがでしたでしょうか。リル・マウスのような13歳のラッパーも出てきているシカゴですが、こういった状況をみると思い出してしまうのがケンドリック・ラマーの『good kid, m.A.A.d city』ですね。フレイモのようなフッドのお兄さんを見ると、飲酒やウィード等が、フッドで人々にどれほどの影響を与えているのか、ケンドリックの作品にもさらに重みが出てきます。稀にチーフ・キーフ君を非難している人もいますが、彼は、このような環境で育ち、彼の現実をラップしフッドを抜け出そうと頑張っているだけで、個人的に彼に非は無いと思います。彼には、どうにか、少なくとも40歳までは生き抜いて頂きたいです。また、CeaseFireのように、自分の命を危険にさらしてまでもポジティブなサポート活動をしている人々に本気のリスペクトを送りたいと思います。ポジティブな願いを込めて…バインバイン!

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