ケンドリック・ラマーのラップを音楽的に分析!

ケンドリック・ラマーのラップを音楽的に分析!


ケンドリックのラップを聴いていると、韻やリリック以外にも、リズムの取り方がとてもユニークだと感じている方も多くいらっしゃるかと思います。そんなケンドリックのラップのフロウやリズムを音楽的に分析しているRap Geniusの記事「How To Listen To Kendrick’s “Backseat Freestyle」が面白かったのでご紹介!記事の著者、マーティン・コナー(Martin Connor)さんは、米のデューク大学で音楽理論の学位をとり、ラップの分析をしているアメリカ人です。今回は、最新アルバム『good kid, m.A.A.d city』の中でも、ケンドリックの凄さが顕著に表れている「Backseat Freestyle」を例にあげて、音楽理論的に詳しく説明しています。楽譜の専門用語等がよく分からなかったので、ミスっている可能性もありますが、凄さはわかって頂けるかと思います。


まず、こちらの「Backseat Freestyle」のラップのリズムを楽譜に置き換え、演奏しているYouTube映像をどうぞ!長文を読むのが面倒くさい方は、このビデオだけでもどうぞ!ラッパーの皆さんは、いろいろ参考になるかも!

[Intro/Outro]
Martin had a dream
Martin had a dream
Kendrick have a dream

[Hook]
All my life I want money and power
Respect my mind or die from lead shower
I pray my dick get big as the Eiffel Tower
So I can fuck the world for seventy two hours

1
2
※楽譜のリリックの大文字は韻を踏んでいる部分です。

楽曲は4/4拍子で、4小節のフックで始まっています。ケンドリックは、フック全体を小節の始めに始め、小節の最後に終わらせ、きちんと纏めています。そして、それぞれ少しずつですが、多音節の韻を踏んでいます。フックとしてはとても標準的なもので、誰でも覚えやすく、ラップし易く、ケンドリックはできる限り自然な文で構成しているのがわかります。

[Verse 1]
Goddamn I feel amazing, damn I’m in the matrix
My mind is living on cloud 9 and this nine is never on vacation
Start up that Maserati and VROOM VROOM I’m racing
Poppin pills in the lobby and I pray they don’t find her naked
And I pray you niggas is hating, shooters go after Judas
Jesus Christ if I live life on my knees, ain’t no need to do this
Park it in front of Lueders, next to that Church’s Chicken
All you pussies is losers, all my niggas is winners, screaming

1バース目で、彼はゆっくりラップし始めています。他の優れた楽曲と共通するように、歌の終わりにあるクライマックス(盛り上がり)効果を弱めないように、いきなりガツガツとラップしていません。「Amazing」と「Matrix」でゆっくりと韻を踏んでいますが、すぐに「My MIND is living on cloud NINE and this NINE is never on VACATION」でいきなりかまします。小節ごとに全体的に纏まっている比較的長い文章に関して、ケンドリックは異なったリズム位置の内外で少しの音節を使用しています。これは、ケンドリックのフロウ全般関して言えるでしょう。しかし、下記のように、これよりはるかに細かい事が起こっています。

3
※楽譜のリリックの大文字部分は韻です。

ここで、ケンドリックのスタイルの顕著な特徴を見ることができます。ケンドリックは、ちょくちょく4拍以外の音節をビートに乗せています。上記の楽譜(1バースの4行目)のように、5連符などが頻繁に出てきています。4/4拍子の音楽の場合、1小節を4拍に分け、その1拍分を4つに割り16分音符にすることができます。(16ビート)16分音符は、5連符や6連符に適合できない訳ではありませんが、凄まじい速さでラップが困難になるため、そう何度も頻繁に行われていません。楽譜を見てみると、1小節中に16分音符が16個くるところを、18個分入っていたりします。また、最後の「And I pray」の部分では、通常、2連符(エナィ/ プレイ)が使われるのが普通ですが、16分音符が3連符(エ/ナイ/プレィ)になっています。全体的に、これ以降の小節やバース全体に渡って、ケンドリックは、上記で説明したような多音節の韻を駆使した傾向を続けています。ちなみに、ケンドリックのライブ映像を確認すると、こういった5連符や6連符の部分は、完全にラップするのではなく、単語を抜かして生ラップしています。

4
※楽譜のリリックの大文字は韻を踏んでいる部分です。

また、ケンドリックの英語発音の強調にも特徴があります。通常「ポッピン」(Poppin/Popping)という英単語の発音記号は「ṕɑpɪŋ」で、最初の「ɑpɪŋ」の音節部分を強く発音しますが、ケンドリックは「ṕɑpɪŋ」の部分をわざと強調し発音することで、曲を部分的に強調しています。上記の楽譜のように、「park it in front of Leuder’s」の「it」や「Next to that Church’s Chicken」の「to」など、文章になると消えてしまう英単語の音節を、わざと強調して発音しています。

[Bridge]
Damn I got bitches, damn I got bitches
Damn I got bitches, wifey, girlfriend and mistress
All my life I want money and power
Respect my mind or nigga It’s go time

3バース目へのブリッジ部分ですが、今までは「Respect my mind or die from lead shower」であった文章の最後を「die from lead shower」から「nigga It’s go time」に変えています。そして「 It’s go time」と「I roll in dough with a good grind」上で「アイ」で韻を踏み、3バース目へ継ぎ目の無い完璧な移行を行っています。このように、楽曲の一部の終了部分を次の開始部分に混じり込める手法を、音楽では「エリシオン」(elision)と呼ぶそうです。

[Verse 3]
I roll in dough with a good grind
And I run at ho with a baton
That’s a relay race with a bouquet
They say, “K, you going marry mines
Beeotch no way, beeotch no way
Beeotch no way, beeotch
Okay, I’m never living life confined, it’s a failure
Even if I’m blind I can tell ya who what when where how
To sell your game right on time
Beeotch go play, beeotch go play
Beeotch go play, beeotch
I look like OJ, killing everything from pussy to a mothafucking Hit-Boy beat
She pussy popping and I got options like an audible, I be
C-O-M-P-T-O-N, I win then ball at your defeat
C-O-M-P-T-O-N, my city mobbing in the street, yellin’

5
6
※楽譜のリリックの大文字は韻を踏んでいる部分です。

3バース目全体に渡り、ケンドリックはラップのスピードを速め、文章の割合を高めて、楽曲全体の最高潮に達していることがわかります。ここでもまた、ケンドリックは「Beeotch go play, beeotch go play」の最後の「go play」を「I look like OJ」に変更し、楽曲の一部の終了部分を次のセクション開始部分に混じり込める手法を駆使しています。これによって、全てのバースをタイトに繋ぎ合わせています。

「motherfucking Hit Boy beat」の単語「mother」部分では、32分音符まで出てくる始末です。その部分は、音符をひとまとまりにする音楽用語で「連桁」と呼ばれるものだそうです。

[まとめ]

マーティン・コナーさんによると、異なったリズム・レベル間で、4連符から5連符、6連符から2重4連符へと、継ぎ目を介さずに移行するケンドリックのラップ能力は、今までに類が無いとのことです。このようなリズムは、Busta Rhymesのアルバム『Genesis』、Outkastのアルバム『Aquemini』やEminemのアルバム作品によく見られたそうですが、それを一度にこなしているケンドリックのようなMCは他にいないそうです。また、ケンドリックのリズムの置き方や発音の強調は、非常に特有なものであり、それがケンドリックのラップをユニークにさせているのではないか?との事でした。ケンドリックのような、既存のラップの構造形式上の進歩は今までに無く、バース構成上の韻の踏み方もとても新しいものだそうです。

個人的に『Section.80』に収録されている「Rigamortis」のラップも楽譜に起こして、YouTube映像のようにリズムを演奏してもらいたいなと思います。マーティン・コナーさんのブログThe Composer’s Cornerでは、他にもヒップホップのラップのリズムを起こした楽譜などをチェックすることができますので、気になった方はチェックしてみてはいかがでしょうか。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください