YAPPARI HIPHOP初LA紀行 “L.A. HOOD LIFE TOURS”編

YAPPARI HIPHOP初LA紀行 “L.A. HOOD LIFE TOURS”編

YAPPARI HIPHOPのAKKEEです。8月に初めてロサンゼルスへ行ってきました!ただ単に夏休みをとってケンドリック・ラマーのLA公演を目がけて旅行に行ったというだけなのですが、ロサンゼルスでも相変わらずのヒップホップ三昧で、個人的な趣味であるヒップホップ研究(フィールドワーク)が面白かったので、ちょこっと書いてみたいと思います。

L.A. HOOD LIFE TOURSを主催するThe Gameのステップ・ファーザー、ホダリ・サバブ氏
Photo by Patrick T. Fallon

滞在中にL.A. HOOD LIFE TOURSという現地ツアーに参加しました。コンプトン出身のラッパー、ゲーム(The Game)のステップ・ファーザー、ホダリ・サバブ(Hodari Sababu)氏が主催しているツアーで、ツアーのタイトル通り、コンプトンやワッツなどサウス・ロサンゼルスを中心にフッドを車で巡る3時間のツアーです。これが超絶濃い内容でございました。この日の参加者は、黒人の家族3人組と、母親と息子の白人の親子(おそらく息子がヒップホップ・リスナー)、そして筆者と筆者の友人。「これから犯罪現場ばかり回るけど、生きて帰ってこれるかな〜」とエンタメ精神も忘れず、ハリウッドから南へ車を走らせます。


LAの地理が細かく分かっていない筆者ですが、ツアーで回ったエリアは、サウス・ロサンゼルスと呼ばれ、上の地図の赤い部分周辺だと思われます。Googleで「サウス・セントラル」や「サウス・ロサンゼルス」を検索してみますと、「ここだけは行くな!」「危険な場所」「治安が悪い」などのワードが出てきます。とにかく初めてのLAで、右も左も分かりませんので、このようなツアーは、ヒップホップ好きにとっては有り難い限りでございます。


Pendersleigh & Sons’ Official Map
その日のツアーの案内人は、ホダリ・サバブさんではなく、スティーヴさんという黒人男性。スティーヴさんは、クリプスのメンバーで、現在43歳。30年のギャング業の末、13年刑務所に服役されていたそうです。ギャング業でコミュニティ内外からリスペクト受けており、こういったツアーが実施できていること、このようなツアーができるのは、自分とホダリ・サバブだけだという説明がありました。ギャングの方が案内するツアーなのか!(普通に考えれば必然的にそうなりますよね…)スティーヴさんの話によると、このサウス・ロサンゼルスも西側のウェスト・サイド(西)と東側のイースト・サイド(東)で全く異なり、高速道路110号線で線引きされているそうです。特徴が分かっていないのですが、 サウス・ロサンゼルスの東側のイースト・サイドは、最も古い黒人居住区、ワッツなどがありますね。


どういった経緯でこうなったのか…気になる道ばたのキーボード!

「このエリアでは庭師でも週に何百ドル稼げるんだ」という解説つきでハリウッドの高級住宅街を走り抜け、「ここはR&B歌手、ブランディの地元だ!」「ここはクーリオの地元ね」「ここはスクールボーイ・Qが育ったエリア」「ここはロサンゼルス暴動発端の事件があった交差点」「ここはフリーウェイ・リック・ロスの拠点エリア」という説明を受けながら、クーリオの地元ではクーリオの曲、スクールボーイ・Qの地元ではスクールボーイ・Qの曲をBGMにドライブします。車社会であるLAの道路の交通網や地理、歴史などの説明に加えて、フッドに入りますと「ここは59 Hoover Cripsの縄張り」「ここがRollin 60s Neighborhood Cripsの縄張りね」(Nipsey Hussleのチームですね!)、「この通りはPiru Bloodsの縄張りだ」など、ブロックごとにブラッズ(赤)とクリプス(青)以下の細かい支部名まで親切にアナウンスしてくれるスティーヴさん、さすがでございます。

まずは、こちら!映画「トレーニングデイ」でデンゼル・ワシントンの演じるアロンゾが、愛人と息子と住む家でイーサン・ホークと銃撃戦するあるシーンあるじゃないですか。その撮影で使われた家に行きました。デンゼル・ワシントン大好きなので、妙に感激しました。

クレンショーにあるザ・リカー・バンク(The Liquor Bank)という酒屋にも立ち寄りました。この酒屋も映画に出てくるようなのですが、忘れました。謎の激安酒から高価そうなウィスキーまで品揃えが良い印象です。スティーヴさんオススメの「BuzzBallz」というテニスボールぐらいのサイズのお酒を買ってみたのですが、ラベルを確認したらアルコール度数20%!!!

トイレ休憩で立ち寄ったバーガー屋は、案の定カウンターが写真のように防弾ガラスでした。地元の皆さんは、ファミリーも多く和やかでした。


あのTyreseのアルバム「2000 Watts」のカバーアートにも起用されているワッツ・タワーにも訪れます。まぁ、妙なタワーでしたが「情熱で何でもできるんだな」と思いました。

ここワッツでも、ギャングの細かい説明が入ります。ワッツは、アフリカン・アメリカンの黒人3大ギャングが牛耳っているそうで、その3つのギャングはそれぞれの低所得者団地、プロジェクトで縄張りが分かれているそうです。ジョーダン・ダウンズ・プロジェクトは”Grape Street Watts Crips”、インペリアル・コート・プロジェクトは”PJ Watts Crips”、ニッカーソン・ガーデン・プロジェクトは”Bounty Hunter Bloods”が仕切っているそうです。クリプス2団体、ブラッズ1団体ですが、3大ギャングそれぞれが、お互いに敵対しているということで、なお一層複雑なギャング事情でございます。ジョーダン・ダウンズ・プロジェクトは、映画「Menace II Society」にも出て来て、実際に撮影もされている場所です。

簡単に歴史を振り返りますと、アメリカでは、1916年から1930年にかけて、南部での人種差別問題から逃げ、北部でより良い仕事と生活を求めるためのアフリカン・アメリカンの皆さんの大移動が起こります。そして、1940年から70年にかけて、今度は、第二次世界大戦へのアメリカ参戦により、軍事産業で雇用機会が増えまして、アフリカン・アメリカンの第二の「大移動」が起こります。1回目は北部への大移動でしたが、2回目は多くの黒人が西部に移動してきます。西部へ押し寄せて来た大勢の黒人の皆さんを受け入れるために、ニッカーソン・ガーデン、ジョーダン・ダウンズ、インペリアル・コートという3つの低所得者団地、プロジェクトが建設されたのですね。1940年に西部にいた黒人は17万人程度でしたが、終戦の1945年には62万人に急増!しかし、戦争が終結したとたん仕事が無くなり、黒人失業者が急増!というタイムラインでございます。

車窓から見える風景は、映画「Menace II Society」(ポケットいっぱいの涙)、「BOYZ N THE HOOD」や「サウスセントラルLA」で観るような景色が広がり、車から見える平屋のお家の数々は、シルバニアファミリーのように妙にメルヘンでした。そして、ついにコンプトンへ!映画『Straight Outta Compton』やケンドリック・ラマーの人気もあってか、コンプトンでの解説が入念です。ケンドリックのアルバム『Good Kid, M.A.A.D City』ままの光景が広がっている!というより、『Good Kid, M.A.A.D City』の安全な昼時間帯バージョンです。


コンプトンでは、Dr.Dreを始めとするN.W.A.のメンバーやMC EIHT、DJ QUIKが昔住んでいた家を巡り、ローズクラン・アヴェニューやルイ・バーガーのある場所を巡りました。ここで筆者大興奮!その興奮ぶりが「おぉ〜」という声に出てしまっている映像がコチラ。ルイ・バーガーは、ケンドリックの曲「Money Trees」に出てくるバーガー屋で、ケンドリックのトニー叔父さん(Uncle Tony)が殺されたという場所ですね。映像冒頭の緑の多い場所が、ルエダーズ公園(Lueders Park)で、こちらも「Backseat Freestyle」でケンドリックと仲間達がこの公園付近で車を止めたり、ケンドリックの歌詞によく出てくる公園です。「400」の交通標識を見たときは、「あ!ボンプトン!YGフォーハネー(400)!」と、YGを思い出しました。


そしてついに、あっさり!ケンドリックが昔住んでいた家にも訪れました。この家に辿り着くの、もっと大変かと思っておりました。※『Good Kid, M.A.A.D City』のアルバムのカバーの家ではありません。


ゲームが50centとやってる「Hate It or Love It」や、ドレイクとやってる「100」のミュージックビデオに出てくる家も巡りました。映像がコチラ!黒人男性2人(The Gameのホーミー達らしい)が出てくる家と家との間が、ちょうど「100」のミュージックビデオで、ゲームとドレイクがいたところですね。ツアー中に唯一遭遇したパイルー・ブラッズのお2人に「The Gameのパパのツアーで回ってるんだ。」と話しかけるスティーヴさん。「そうだと思ったよ。達者でな〜!」といった具合でございました。


「Hate It or Love It」のミュージックビデオに登場するゲームが昔住んでいた家です。壁がピンク♡


「100」のミュージックビデオにも出てくるセンテニアル高校も車で通り過ぎましたが、ここはドクター・ドレーやケンドリック・ラマー、DJ QUIKが通った学校です。


Kendrick Lamar – Growing Up in Compton (VEVO LIFT)

以前はEazy-Eの家にも行っていたようなのですが、彼が住んでいた家には、現在も母親や家族が住んでおり、以前訪れた時に揉めて、それ以降は安全のため行っていないそうです。というのも、イージーの甥の1人(現役ギャングで、数ヶ月前に出所)と、15人ぐらいの男たちが出てきて乗っている車の前で道をふさぎ、「ツアーで来るなら金よこせ!」と大金を要求してきたとの説明がございました。やはり、ギャングとの話し方や対応の仕方を知らない外部の人は、こういったツアーはできないだろうなと改めて納得。葬儀に集結するギャング同士の揉め事を避けるために作られたというコンプトン初のドライブスルーの葬儀場も案内してくれます。


コンプトン出身の方が多く眠る墓地も通り過ぎます。墓石すらなく花が手向けられていました。


コンプトン・ファッション・センターは、残念ながら現在はウォルマートになっておりますが、そこの駐車場を走りながらスティーブさんが語り始めました。「俺はこの駐車場で45口径のピストルで撃たれたことがある。背中から肺、胸を貫通した。ここで刺されたこともある。襲われて昏睡状態になったこともある。いま俺たちがいる、この駐車場でだ。ここでの哲学は”The Shit don’t stop til my casket drop”だ。(沈黙)俺は、今も生きていることに感謝している。」と、トゥパックの怖れ多いライン「The Shit don’t stop til my casket drop(=俺の棺桶が葬られるまで、これは終わらない)」でツアーの最後を締めくくったスティーヴさん。このようなストーリーはラップで幾度となく耳にしていますが、車のミラー越しにスティーヴさんと目が合いながら直接お話を聞くというのは、やはり言葉の重みが違いました。


最後はケンドリック・ラマーの「KING KUNTA」のミュージックビデオの冒頭にも出てくるWelcome to Comptonの標識で記念撮影!一緒に参加した白人親子は昨今のアメリカのムードもあってか、特に母親が終始怯えていたのも印象的でした。

フッドの建物や人々、風景を観察しまくったツアーの感想としましては、視覚的にも雰囲気的にもスティーヴさんの解説的にも3時間で得る情報量が多いこと、そして英語での説明を聞き逃すまい!と必死だったので非常に疲れました。普通にフッドの皆さんが日常生活を送っているエリアを巡るので、こんな観光ツアーいろんな意味で大丈夫なのか?と思う部分もありますが、こういったヒップホップの背景にある環境を実際に見たり聞いたりするには最高のツアーです。ツアーを回った昼の時間帯は、M.A.A.D Cityさを感じることもありませんでしたが、帰国してコンプトン在住の人々のスレッドを読んでいたら「家の庭で子供と平和にのんびり過ごしてても、そこにギャングの車が通ったり、危ないヤツが現れれば、数分の内に戦場に変わるのがコンプトン」という言葉に、なるほど。そして、ケンドリックのようなラッパーがコンプトンから出てきたのって、ほんと凄い現象だなと。「凄い!」と思うレベルが数倍にも増しました。

そして、このツアーに参加してみたいと思った皆さん!トリップアドバイザーの評価も良いですし、英語の解説が分からなくても、このエリアを車で見て回るだけでも貴重な体験ができると思います。また、LAのフッドを題材とした映画、特に「Menace II Society」やコンプトンを始めとするこのエリア出身のラッパーのミュージック・ビデオやカルチャーなども事前に予習しておくと、さらに楽しめること間違い無しです。また、安全な日本とは完全に別世界のギャング文化が根付いているエリアであり、アジア人なんて1人も見ませんでしたので、勘違いされるような服装などは避けて参加した方が無難かと思います。(何かあったときに、自分で対処できる位の英語力と危機回避能力があれば別ですが)ということで、興味ある方は是非参加してみてはいかがでしょうか。

L.A. HOOD LIFE TOURS
料金:$75.00(2017年8月現在)
TripAdvisor
https://www.lahoodlifetours.com/
※オンラインで予約すると、集合時間と場所のお知らせが届きます。集合場所は、観光地のハリウッド。ハリウッド/バイン駅から徒歩数分で、ホダリ・サバブさんの写真の受付!?があります。

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