ジュエリー専門家がラッパーのグリルズを解説!

ジュエリー専門家がラッパーのグリルズを解説!

2019年6月に公開されたGQの「Jewelry Expert Critiques Rapper’s Grillz」というYoutube動画が面白かったのでご紹介します。ジュエリー専門家がラッパー愛用のグリルズの解説し評論している動画なのですが、宝石のカット法や宝石を留めるセッティングの種類など非常に興味深い内容です。お洒落とはいえ、宝石を施したグリルズはかなり危険なものだということが分かりました。

Jewelry Expert Critiques Rappers’ Grillz | Fine Points | GQ
Paul WallとJohnny Dang

グリルズといえば、 ベトナム系移民のジョニー・ダン(Johnny Dang)の商品が一番人気です 。彼はミーゴス(Migos)、トラヴィス・スコット(Travis Scott)、Beyonce(ビヨンセ)など著名アーティストのグリルズやジュエリーを手がけ、 ヒューストンのラッパーのポール・ウォールと共にヒューストンにJohnny Dang & Coというジュエリー/カスタム・グリルズ専門店を持っています。そして、今回の動画のジュエリー解説者は、ニューヨークのダイヤモンド・ディストリクトにハンドメイドのカスタム・ダイヤモンド・ジュエリー専門店、TraxNYCを構えるセレブ・ジュエリー専門家、トラックス(Trax/Maksud Agadjani)です。彼もデザイナー(Desiigner)、6ix9ine、ジェイ・Z(Jay-Z)、リュダクリス(Ludacris)、ジャスティン・ビーバー(Justin Bieber)といったアーティストのジュエリーを手がけています。

<グリルズ豆知識:注意事項1>
グリルズはヒップホップに欠かせないアクセサリーアイテムですが、歯に装着するジュエリーということで、施術をする際には手袋をつけ、歯に正しくフィットする歯型をとり、デンタル・ゴールドを使用しなければなりません。カスタム・グリルズを急いで作る行為はご法度です。そして、きちんと定評のあるグリルズ専門家を見つけることが重要です。

ポール・ウォール(Paul Wall)

ポール・ウォールはグリルズ・レジェンドです。彼のグリルズはセッティングが非常に難しいプリンセス・カットで、非常に危険です。個人的に私はプリンセス・カットを好みません。ダイヤモンドが外れて噛んでしまった時に歯が欠けるのが怖いからです。プリンセス・カットのダイヤモンドは、正方形もしくは長方形の形をしています。正方形のダイヤモンドを箱に敷き詰めるように並べ、ダイヤモンドとダイヤモンドの間に何もないセッティングをインビジブル・セッティングといいます。ダイヤモンドを固定する爪や地金がない状態です。ダイヤモンドが正しくカットされていないと、ダイヤモンドが外れて落ちてしまいます。ダイヤモンドが外れたのに気づかず、顎の力を最大限にして噛んでしまうと歯が二つに割れて、急いで歯医者に行き叫ぶことになるでしょう。

プリンセス・カット
ダイヤモンドのカット手法のひとつ。1970年頃に登場した手法で現代でも人気!カットの面が非常に細かく繊細であること、カット面の数が多いことが特徴。カット面を増やすことで、独特の反射光を生み出し高貴な印象の輝きを放つが、細かくカットするためエッジが欠けやすいという欠点がある。取り扱いには注意が必要。

インビジブル・セッティング職人の技

インビジブル・セッティング(ミステリー・セッティング)
宝石の留め方の1つで、それぞれの石を正確にカットし、石の間の空間をなくす非常に特殊な技法。フランスに本店のあるハイジュエラー、ヴァン クリーフ&アーぺルが生み出した独自のテクニックで、宝石の輝きが最大限に引き出される。 1933年に技術の特許が取得され、ツールや機械の進化により2000年代より採用され始めた。

<グリルズ豆知識:歯型>
グリルズをきちんと歯に嵌めるには、歯型を取る必要があります。2つの化合物を混ぜた材料を使用し、それが乾くまで30秒から40秒ぐらい待ちます。本物のプロは、グリルズが歯の細部まできちんとフィットするように2層の歯型をとった後、グリルズの生産工程に入ります。 生産工程では、歯や口内にダメージを与えないように、ダイヤモンドのサイズにピッタリはまるゴールドをミリ単位で鋳造します。

リル・ヨッティ(Lil Yachty)

リル・ヨッティのグリルズはとてもユニークで、多彩なカラーが施されています。オレンジ、イエロー、ブルー、グリーンが使用され、中でもオレンジとグリーンは他の宝石より輝いています。これはサファイアの可能性が高いです。とてもクオリティが高く、安価にできるものではありません。とても大変な工程で高度な技術が必要です。これを作った職人は本当にいい仕事をしていますね。

クエイヴォ(Quavo)

ネットで話題になったクエイヴォのバゲット・グリルズです。バゲットとは、長方形の形をしたダイヤモンドで、カット面が大きいため輝きが少ないグリルズです。90年代に登場したスタイルで、当時のジュエリー技術は、発展初期の段階で品質もそこまで良くありませんでしたが、現在は高品質です。クエイヴォは高品質のグリルズを手に入れていますが、少し実験台にされているような気もします。このバゲット・グリルズは新しいタイプのセッティングだからです。ダイヤモンドがひとつでも外れたら大変です。外れたダイヤモンドで舌を切る可能性もあります。このようなグリルズを作る場合には熟考した方がいいと思いますね。「おっ!ダイヤモンド取れちゃった!」では済みません。地球上にある天然物で最も硬い「ダイヤモンド」と「歯」を組み合わせることは、非常に危険な行為です。グリルズについて学んで、重圧テストなども行いトラブルが起こらないことを祈っています。それにしても、非常に素晴らしいグリルズで誰もが欲しがる代物です。これも、またトレンドのひとつですね。

▼バゲットカット
ステップカットの中で最も有名で人気のあるカットで、ブリリアントカットのようにキラキラとした細やかな輝きではなく、品格のある落ち着いた透明度が際立つ輝きが特徴。名称は、パリのパン屋に並ぶ細長いパン「バゲット」に由来している。

A Boogie wit da Hoodie、Playboi CartiとNAVをフィーチャーしたMustardの楽曲「Baguettes in the Face」のバゲットは、このバゲット・グリルズのことです。

トリッピー・レッド(Trippie Redd )

トリッピー・レッドのグリルズはシャープ・ティースです。ちょっとバカっぽい見た目ですが、アーティストとして自分をクレイジーな風貌に見立てたかったら、このグリルズがオススメです。グリルズの上には銘刻が施されていますね。このブルー・ダイヤモンドは高品質で、非常に明るく輝いています。ごく稀に非常に高品質のアクアブルー色のブルー・ダイヤモンドを見かけます。このグリルズを手がけた人物は、トリッピー・レッドを顧客としてキープしておきたいんでしょうね。グリルズのトップに文字があり、とても複雑なグリルズになっていますが、シャープ・ティースだと話す際にそこまで意味がないかもしれません。

リフ・ラフ(Riff Raff)

トリッピー・レッドが出てくる前には、リフ・ラフがいました。リフ・ラフもトリッピー・レッドと似たようなシャープ・ティースですが、どちらかというとピラニア・ティースですね。非常に鋭く、非常にクレイジーで非常にアグレッシブなグリルズです。輝きが少ないタイプのブルー・ダイヤモンドを使用していますが、それでも良いセッティングでデザインは非常に複雑です。これで舌を食いちぎったりしたくはないでしょう。口の中は非常に危険な状態です。このグリルズを装着して、お酒を何杯か飲んで、人と口論でもしたら、病院行きの結末になること間違いなし!

<グリルズ豆知識:注意事項2>
グリルズは歯ではありません。グリルズを装着している状態で、食べたり、ガムを噛んだりしてはダメです。喫煙も好ましくありません。喫煙が歯に与える影響と同じく、グリルズにタールが付着し汚くなります。それを除去にするためにはジュエラーに頼むしかありません。

ファレル・ウィリアムス(Pharrell Williams)

ファレルのグリルズは非常に美しいエナメルです。ビニール・コーティングされた安価なエナメルとは異なり、光沢や輝きのある高品質のエナメルを使っています。特に化学物質でできているものに関しては安価な素材を口の中に入れたくはないですよね。このグリルズは非常に美しく良く出来ています。18カラットのゴールドのセットのようですが、これもみなさんが見たくなるようなグリルズですね。

エイサップ・ロッキー(Asap Rocky)

エイサップ・ロッキーのグリルズは上下ともイエロー・ゴールドのクラシックなスタイルです。18カラットのデンタル・ゴールドのようですね。職人のプロの技で仕上がっており、モールなどで手に入るようなグリルズではありません。素晴らしい磨き上げです。この写真でもロッキーは誇らしげですね。ゴールドのスタンダードなグリルズは、このように素晴らしい見た目であるべきだと思います。

トラヴィス・スコット(Travis Scott)

トラヴィス・スコットのグリルズは、とてもレアです。チョコレート・ダイヤモンド、ホワイト・ダイヤモンド、ピンク・ダイヤモンドとブルー・ダイヤモンドのインビジブル・セッティングです。ピンク・ダイヤモンドのグリルズはあまり見かけないので、珍しいですね。このようなダイヤモンドの色選びはなかなか無いので、彼自身がこのような色のグリルズが欲しくて選んだのでしょう。そして、ローズ・ゴールドはデンタル・ゴールドで出来ているようです。ローズ・ゴールドは少し扱いにくいので、このグリルズの製作者はいろいろ勉強を重ねたと思います。とても希少で興味深いグリルズですね。

<グリルズ豆知識:デンタル・ゴールド>
デンタル・ゴールドは、特別なタイプのゴールドで、アレルギーの要因となる亜鉛やニッケルなどの金属が含まれておらず、口の中に入れても問題のない歯科治療で使われる合金。

ヤング・M.A (Young M.A)

ヤングM.Aのグリルズは個人的に私が制作しました。彼女のような顧客は逃したく無いので、ベストを尽くしました。素晴らしいプロング・セッティングで、歯のディティールまで細かく再現するために、通常の歯型をとった後に、特別なジェルでもう一度歯型を取りました。その結果、歯茎のラインにゴールドが食い込むことなくフィットし、快適な装着を実現しています。ビジネスから製品まで不便なことがあってはダメですよね。私たちは100%お客様と製品を大事にします!

▼プロング・セッティング(ティファニー・セッティング)
小さな金属のプロング(爪)で宝石をつかんで留める方法。1886年にティファニー社の創業者が考案した手法で「ティファニー・セッティング」とも呼ばれる。

リル・ウェイン(Lil Wayne)

リル・ウェインはクラシックなプロング・セットのグリルズです。ちょっと古いスタイルのように見えますが、長年愛用しているものでしょうね。彼はグリルズのオリジネーターの1人ですから。定番のホワイト・ダイヤモンドを上下両方に施し、ホワイト・ゴールドはプラチナの可能性もあります。セッティングは、彼が流行させた定番のグリルズです。

カニエ・ウェスト(Kanye West)

カニエのグリルズは、宝石で敷き詰められた下の歯6本です。イエロー・ゴールドで、とても素晴らしいです。もし、全部の歯をグリルズで埋めたく無かったら、部分的にグリルズを装着するのもアリですね。ただアート・センスが問われるので、そういったセンスに長けているカニエ・ウェストにはピッタリだと思います。

グリルズには、ジュエリーを正しく扱うジュエリー・ビジネスでの豊富な経験と知性、顧客を満足させる製品を制作する決断力が必要です。そして、全てのジュエラーがそれらの特性を持ち得ている訳ではありません。


宝石の研磨技術や石留め技術といったジュエリー制作技術の発展により、以前は制作できなかったような新しいスタイルのグリルズが登場しており大変興味深い動画でした。お洒落とはいえども「ダイヤモンド」と「歯」の組み合わせは非常に危険であることがよく分かりました。また、クラブのパーティで見せびらかしているシーンをよく見かけますが、宝石を施したグリルズを装着したままアルコールの摂取や喫煙はグリルズにダメージを与えるため禁物であることも新たな発見でした。(よく考えてみると、ダイヤモンドに酒やタバコの煙を浴びせている状態なので当然ですが)

みなさんも是非1個ぐらいはカスタム・グリルズに挑戦してみてはいかがでしょうか?

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