USヒップホップ界隈から探る古代エジプトの謎【2】

USヒップホップ界隈から探る古代エジプトの謎【2】

USヒップホップ界隈から探る古代エジプトの謎【1】では、近年のアフリカ系アメリカ人アーティストと古代エジプトモチーフの動きを紹介したが、ヒップホップのオールドスクール期〜90年代、60年代以降のジャズ、ソウル、ファンク、アフロビート界隈にも古代エジプト文明にちなんだモチーフをファッション、ヴィジュアルや音楽で表現しているアフリカ系アメリカ人アーティストが多くいる。

ヒップホップのオールドスクール期〜90年代

ヒップホップのオールドスクール期から90年代にかけて、東海岸にはアフリカ・バンバータ(Africa Bambaataa)のユニバーサル・ズールー・ネイションを筆頭に、X・クラン(X-Clan)、ブランド・ヌビアン(Brand Nubian)、ラキム(Rakim)、エリカ・バドゥ(Erykah Badu)、ナズ(Nas)といったアーティストがいる。

X・クランやエリカ・バドゥが身につけているアンク(Ankh)のジュエリーは、古代エジプトのヒエログリフで「生命」あるいは「生きること」を意味するシンボルで、お守りや装飾の図柄としてよく目にする。1984年にファイヴ・パーセンターズに入り、ラキム・アラー(Rakim Allah)に改名したラキムの名前は、エジプト神話の太陽神ラー(Ra)とエジプトの別名称であるキム(Kim)を合わせたものだ。X・クランのプロフェッサーX(Professor X)の父親、ロバート・カーソン(Robert “Sonny” Carson)は、1970年代にCORE(人種平等会議) という組織団体のブルックリン支部で活躍した公民権活動家で、X・クランのアーティスト活動へも影響を与えている。

1987年から1993年までのニューヨークのヒップホップ黄金期時代は、ネーション・オブ・イスラムやファイヴ・パーセンターズといった組織の教えに影響を受けつつ、アフロセントリックでブラック・ナショナリズムの傾向が高いラップが顕著であった。

ここで分かるのは、アフリカやアフリカ起源の文化を第ーとするアフロセントリックでコンシャスなメッセージを発信するアーティストの作品で、古代エジプト文明のモチーフ起用や、それを言及するリリックが見受けられることである。そして、当時のブラック・ナショナリズムといった急進的なアフリカ系アメリカ人解放運動の中で、ネーション・オブ・イスラムやファイヴ・パーセンターズといった団体の教えに、古代エジプト文明の歴史や文化が内包されているということである。

西海岸のオールドスクール期から90年代にかけてはどうだろうか?西海岸ヒップホップ、モダンファンク、エレクトロ、テクノなどジャンルを超えてダンスミュージックに影響を与え続けているレジェンド:エジプシャン・ラヴァー(Egyptian Lover)は、ステージネームから作品にまで古代エジプトのコンセプトを起用している。これについて、エジプシャン・ラヴァーはRedBullのインタビューでこう語っている。

「フッドで育つと、ここから抜け出したいという気持ちが強くなる。フッドから抜け出し、自分を見つけられる場所を頭の中で想像するんだ。当時は、それがエジプトだった。」エジプシャン・ラバーはDJを始める前から使っていたそうだ。「俺の友達はみんなギャングスタでジャケットの後ろに名前を入れていたんだ。ミスター・ガンズ(Mr.Guns)という名前が入っているやつは、銃を持っている奴だった。俺はエジプシャン・ラバーって入ってるジャケットを持ってたよ。ギャングスタじゃなかったけど、女の子たちはエジプシャン・ラバーを気に入っていたから、その名前にしたんだ。」

カリフォルニアはイースト・オークランドで結成されたヒップホップ・コレクティブ、ハイエログリフィクス(Hierogriphics)は、グループ名自体が古代エジプトの象形文字(ヒエログリフ)である。ハイエログリフィクスのメンバーは古代エジプトへの興味をもっていたが、その中でもラッパーのカジュアル(Casual)は、古代エジプトの象形文字までマスターしている。CultureCrushのインタビューによると、カジュアルは自身の音楽活動を一時休止し、本格的に古代エジプトの象形文字を勉強し、現在では象形文字の読み書き、翻訳もできるレベルまでに至っている。

アフロフューチャリズム

ブラックミュージック史を振り返ってみると、ヒップホップ文化が生まれる前の60年代以降のジャズ、ソウル、ファンク、アフロビート界隈にも古代エジプトに傾倒するアフリカ系アメリカ人アーティストが多くいる。 エジプト神話の太陽神ラーが名前の由来となっているサン・ラー(Sun Ra)、ソウル・ファンク界にはサン・ラーの教えに影響を受けたP-FUNK一派のジョージ・クリントン(George Clinton)、そしてアース・ウインド&ファイアー(Earth, Wind & Fire)など数多くのアーティストが古代エジプトモチーフを起用している。ここで、サン・ラーに代表されるアフロフューチャリズムという宇宙思想に、宇宙や未来と同様にピラミッドやファラオといった古代エジプト文明も内包されていることが分かる。

次記事では、このようにアフリカ系アメリカ人アーティストが古代エジプトのモチーフ起用してきた背景にあるアフリカ系アメリカ人の間で広く普及している古代エジプトに関する事実を中心に、キリスト教にまつわる複雑な世界史、60年代に起こった公民権運動や学生運動と共に発展したアフリカン・アメリカン・スタディーズ(ブラックスタディーズ)に迫ってみる。

USヒップホップ界隈から探る古代エジプトの謎【3】

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください